日本統治下における台湾語・客家語・蕃語資料

【全3巻】A5判上製箱入

  2019年2月刊行/発売中

【監修・解説】
中川 仁(明海大学外国語学部教授)

台湾総督府
植民地台湾に統治者として進出した日本。そこは、多様な民族と「ことば」で構成された複雑な新世界であった。外国語としての「台湾語」、「客家語」、「蕃語」を日本人はどのように習得し、言語学習を試みたのか。植民地下台湾の文教と統治そして人類学―「ことば」の背景を鑑み、言語学的な新たな研究の指針たるべき、三部作を復刻。
「ことば」を巡る諸相を通して視る植民地台湾の多層な文化、社会、民族。
台湾の警察官
台湾アミ族
台湾蕃族分布図




















第1巻 台湾語法 全(附・台湾語助数詞)
■陳 輝龍著(昭和9(1934)年7月20日初版判)
  《解説:中川 仁》
   本体価格1万8000円(税別)
   540頁/ISBN978-4-86364-536-3
『台湾語法』は戦前の台湾語の語法書として日本語でまとめられたものであり、台湾語の語法書としての嚆矢である。植民地統治下の台湾では、日本人官吏の台湾語の学習書の役割を果たすとともに、台湾語の通訳官吏養成のための自主学習書として位置づけられていた。日本の台湾領有が日本語教育の実態としてあり、日本語は台湾の人々にとって強制的に学習させられる言語であった当時、日本人には台湾の人々の管理のためにも台湾語を学習させていた側面をもつ。言語の同化による日本語の使用の拡大が強要され、公の場面で通じる政治的に支配する言語としての役割を日本語が担い、台湾語は、日本人が台湾の人々を管理するための言語として位置づけていったのである。
こうした背景のもと『台湾語法』の刊行は台湾での文芸復興という時代とも合致し学習書という要素だけではなく、政治的意図を色濃く持っている。
また、この語法書の価値は、戦後の日本において、王育徳によって『台湾語常用語彙』のなかの「台湾語概説」の項目で参考文献としてふれられており、台湾語(福建語)の主要関係書目の二冊のうちの一冊として、『台湾語法』が挙げられている。


















第2巻 『語苑』にみる客家語研究
■『語苑』台湾語通信研究会(第15巻(1922年)~第30号(1937年))より
  《解説:羅 済立》
   本体価格1万8000円(税別)
   580頁/ISBN978-4-86364-537-0
『語苑』は、台湾語通信研究会の機関誌である。1908年(明治41年)四月『臺灣語學雜誌』を以て発刊し、第五巻一二号より『語苑』と改称した。当初『語苑』は官吏登用試験と関係のある台湾語教養機関誌であった。1941年(昭和16年11月)より『警察語學講習資料』と改題し、警察の語学講習ための資料を提供するものとなっていく。
『語苑』には、客家語の語彙や会話文など、客家に関するものが多数掲載されている。それは客家人の多い特殊な地域で警察活動(土地調査、国勢調査など)に資するために、客家語仮名遣いが付けられ出版されたものである。客家語に関係する書籍が少なかった中、統治のために、教化政策、行政事務、警察業務関係など、眼前の必要に迫れた実用的なものから出発して、客家語の学習研究を行わなければならなかったということを反映している。一方掲載されている語彙や会話文は言葉の生きた化石であり、百年前の台湾客家語の口語音を保っており、歷史的な価値が高い。資料の客家語表記はすべて漢字であり、表音には日本の仮名遣いを使用した。その中には、通行の漢文、日本製の形声会意字、日本の熟字訓などが豊富であり、貴重な言語資料となり、現代客家語の源流及び史的変遷に手がかりの提供に大いに役立つと思われる。客家語歴史の一頁として、『語苑』から統治時期の台湾客家語の研究の実態を明らかにするのは意義深いことと考えられる。
















第3巻 蕃語研究
■安倍明義編(昭和5(1930)年12月28日)
  《解説:王 麒銘、中川 仁》
   本体価格1万8000円(税別)
   594頁/ISBN978-4-96364-538-7
著者の安倍明義は、1891(明治24)年12月に福島県に生まれ、1913年3月台湾総督府国語学校公学師範部甲科を卒業後、台東庁下の馬蘭公学校・都歴公学校等で教えていた。安倍は原住民児童向けの公学校で教えると同時に、同庁の教育行政にも深く携わり、22歳から約15年間、台東庁で暮らし研究発表を続けた。そして『蕃語研究』を1930(昭和5)年12月に蕃語研究会から刊行する。
以前より安倍は原住民児童に正確な日本語を教えることを強く意識して、それを積極的に実践していた。こうした経験とさらには他の原住民語との比較、「対訳」を重視する意識は、『蕃語研究』の構成にも強く反映されていく。
その構成は、第一編「語法篇」・第二編「会話篇」・第三編「単語篇」・附録「蕃謡」からなる。語法篇は、アミ語・プユマ語・パイワン語・サリセン(=ルカイ)語・ブヌン語・ヤミ語・加礼宛(=カバラン)語について、それぞれの代名詞・数詞・動詞・形容詞・副詞・前置詞及後置詞・感動詞・動詞変化について詳述しており、会話篇は上記の七種の言語の会話を紹介している。単語篇は、第一章「国語類似の蕃語」、第二章「主なる単語」(時刻・四季・方位・天文・地理・人倫・身体・家屋・衣類・食事・果物・穀菽野菜・樹木・獣類・鳥類・魚貝類・蟲類・其他・形容詞・動詞)、第三章「単語集」、第四章「蕃語とフイリピン語及び馬来語との比較」、第五章「蕃人名調」、第六章「蕃人利用植物」という構成であった。最後に、附録として、「アミ蕃謡」「プユマ蕃謡」「パイワン蕃謡」を収録している。
一般的に研究者は台湾各地の短期間調査を行い得るが、安倍のように原住民社会にまるで「長期留学」したような経験は、なかなか体験できなかったであろう。この意味でも安倍の研究成果である『蕃語研究』は、学界にとって参考価値の高いものである。
















戦後初期日本における中国語研究基礎資料

【全3巻(4冊)】A5判上製箱入

  2020年11月刊行/発売中

【監修・解説】
中川 仁(明海大学外国語学部教授)

倉石武四郎先生*
戦前と戦後の「中国語」の研究は明らかに異なった二つの要素を有している。一つは日本の近代化と日本の領土拡大を目的とした政策を実践するために学ばれた言語であるというものであり、もう一つは戦後の日中新時代に向けた新たな関係構築の試みを前提とした言語学習と修得である。中国語研究は戦前期の国策と連動性した中国語学習の実践的な教科書を倉石武四郎氏が発表し、関連する研究が端緒となったからこそ、戦後の中国との関係を安定的にするための「中国語」研究が生まれた。
こうした戦争を介して連なる「中国語」をとりまく状況を背景に戦後の「中国語」研究の再編期に科学的研究成果を網羅し編まれた最重要な辞事典3冊を「戦後初期日本における中国語研究基礎資料」として復刻する。


日中学院図書室での倉石武四郎先生の
授業風景*
昭和30年代の東京
中華人民共和国建国時の天安門広場











*日中学院提供
第1巻 ラテン化新文字による中国語辞典(第1~7分冊)
■倉石武四郎著(昭和33(1958)年6月28日)
  《解説:中川 仁・吉田雅子》
   本体価1万9000円(税込価2万900円)
   826頁/ISBN978-4-86364-539-4
謄写版による7分冊の本辞典は、倉石武四郎が1952年に着手し、54年に第1分冊(A~C)、55年に第2分冊(D~G)、56年に第3分冊(I~L)、57年に第4分冊(М~R)と第5分冊(S~Т)、58年に第6分冊(U~Z)、そして同年秋に第7分冊(品詞による索引)が完成された。
この辞書づくりは最初、ラテン化新文字によって話しことばから中国語を学ぼうという倉石の講習会受講者のためのものだった。そして本辞典は、漢字の字書はあってもことばの辞典のない中国では画期的な「ことば」の辞典であった陸志韋の労作『北京話単音詞詞彙』をもとにラテン化新文字の綴りを使い、abc順に配列し、日本の学習者研究者が利用しやすいように編集された初めての中国語の「ことば」の辞典である。
















第2巻 中国語学事典(上・下)
■中国語学研究会編(昭和33(1958)年1月29日)
  《解説:吉田雅子》
   本体価2万8000円(税込価3万800円)
   (上)586頁・(下)602頁/ISBN978-4-86364-542-4
中国語学研究会が関西の一角ではじまったのは戦後間もない1946年10月。49年4月からは関東支部がひらかれ、50年秋には第1回全国大会が開催された。56年には会の十周年を記念する仕事として『中国語学事典』が提案された。中国語学は他のどの語学よりもとびぬけて長い歴史をもちまた深く浸透しているが、理論と実用の面との乖離や、古代と現代の研究が連携できなかった欠陥にかんがみ、新しい学風を建設し、先進の業績を顕彰しようと多くの研究者の協力のもと、58年1月本事典は完成した。

















第3巻 中国語学新辞典
■中国語学研究会編(昭和44(1969)年10月15日)
  《解説:中川 仁、龐 淼、馬 嵐、賈恬立、土屋真一》
   本体価1万8000円(税込価1万9800円)
   440頁/ISBN978-4-86364-543-1

中国語学研究会は、1958年に『中国語学事典』を出版したが、一種の読み物であり小項目別の辞典ではなかった。そこで会の20周年の歩みを総括するとともに、会の創設以来献身された倉石武四郎会長への感謝の意を表すため『中国語学新辞典』の出版が計画され、2年半の歳月をかけて69年出版にいたった。この辞典は、戦後20年の中国語学の「近代化・科学化」の歩みをたどる有意義な辞典であるとともに当時学園闘争の只中にあり日中問題や学問の変革に暗中模索する学界の姿を反映する。


















続刊 2021年刊行予定
『日本統治下における台湾語・客家語・蕃語資料』補巻(仮)(『広東の民話』と『台湾の歌謡と名著物語』収録)
全1巻:B5判並製・予価9,500円
【監修・解説】中川 仁・小川 唯・下仲一功

植民地下の台湾で伝承されていた「民話」、「歌謡」、「昔話」、「小説」をその地に根付いた文化的な視点で捉え、また「ことば遊び」、「口承・伝承」、「戒め・教訓」、「語り」などを口頭芸術として評価した2冊の資料を収録する。口頭芸術と「言語と文学との関連性」を通して、当時の台湾の人々の文化と芸術的な思考の総合的成果を検証する資料である。
新刊2021年7月刊行

台湾語研究序説


中川 仁[著]
本体価2,500円(税込価2,750円)
B5判並製170頁/ISBN978-4-86364-347-5

本書は、日本統治時代の台湾において陳輝龍によって 「台湾語文法書」として『台湾語法』が著されたことを嚆矢とした、台湾人による文芸復興(後に社会運動を包摂した文芸運動の展開と台湾語の書写方法と表現形態を含む論争などを展開する。)と文化創生、それに伴い台湾人の高い民度が形成されていく運動の最初期の歴史と戦後初期へと続く台湾語研究の様相を考察するものである。
また戦後初期の日本における台湾語研究として、李献璋が台湾語の研究をおこなった経緯をまとめ、次に王育徳の研究の動向をまとめる。とくに王育徳の思想は、戒厳令以降の台湾における言語状況に大きな影響を及ぼすこととなった。