「選ばれた島」刊行にあたって
監修 石居人也
『選ばれた島』は、一八九三年、徳島県に生まれた青木けいさいが、香川県の大島療養所(現、国立療養所大島青松園)、熊本県の回春病院を経て、沖縄県へとわたり、ハンセン病者の安住の地を求めて試行錯誤をかさねてゆくさまを描いた書で、一九三八年の国頭愛楽園(現、国立療養所沖縄愛楽園)創設までが描かれている。本書の初版は、青木の著書として、愛楽園の開園二〇周年、青木の受洗四〇周年にあたる一九五八年に印刷され、沖縄聖公会本部によって、非売品として頒布された。その後、復刊を願いながら一九六九年に亡くなったという青木の遺志を酌んだ、渡辺信夫の編書として復刊(新教出版社、一九七二年)される。
青木恵哉は、香川・熊本・沖縄の療養所を、そして四国・九州・沖縄の各地を転々とした、「わたる」療養者であると同時に、人と人とのあいだにある隔たりを超えて、その関係をとりもとうとした、「わたす」療養者でもあった。また、そうした「わたり」「わたす」実践を書き残してもいる。『選ばれた島』は、その代表的なものといえよう。そして、長く読み継がれるべきとの思いをこめて復刊された。だが初版と復刊版とのあいだには、およそ一五年の歳月と、青木の死と、編者の思い入れが、さしはさまれている。両者をつきあわせながら、それぞれのもつ意味を考えることが大切だろう。本リプリント版が、そうした機会を提供するものになることを願っている。