「藻汐草」刊行にあたって
監修 阿部安成
法律第一一号「癩予防ニ関スル件」が施行された一九〇九年から、いわゆる「らい予防法」廃止の一九九六年にいたるまで、一三の国立療養所があり、いまもそれらは存続している。どの療養所でも総合誌といってよい逐次刊行物が発行され、多くの療養所でそれらが保管されていることを、ハンセン病について調査や研究をおこなうものたちのほとんどが知っている。
だが、それらの逐次刊行物の全巻を閲覧できる場所はかぎられていて、たとえば、大島療養所とそれが改称された国立療養所大島青松園で発行された『藻汐草』(一九三二年創刊、一九四四年休刊)は、国立ハンセン病資料館でのみ、そのすべてが閲覧できる。これは現在、国立療養所大島青松園内所蔵分でもその最終号を欠いている。
存在が知られていながらも、全編が通読される機会も少なく、研究への活用もこれまで充分ではなかった療養所での総合誌は、その全巻がリプリント刊行されるだけでも意義がある。和歌、俳句、川柳、詩、行事記録、編輯後記などが掲載された総合誌をまるごと活用する試みは、ようやく始まったところである。