地方分権の”原点”を視る
小倉襄二同志社大学文学部教授
地方分権論が多彩・多岐に交わされている。しかし、大切な領野が欠落しているのではないか。日本の近代・現代史において自治体、とくに都市が担った役割の強靭で、視つづけた”部分”らついての検証である。吏僚論ともいうべきか。大切にしたいのは本社会調査シリーズの膨大、精緻な調査を企て、それを遂行・刊行に至るまでの動機づけ。私は”底辺に向かう志”とよぶが、これら社会問題の探究にむかった地方吏僚と協力者の志とその想いへの記憶である。この社会調査シリーズのなかに窺えるものこそ、地方分権をなぜ、いま、問うかについての原点である。
戦前・戦後、そして現在、恒にこれら諸調査の状況に脈絡をもつ底辺は在りつづける。先人たちのこの事蹟への回帰を欠落し、歴史に働いた志をよみとらずに地方分権論は空しい。とくに大阪市は重い拠点であった。これらの意味で刊行を強く期待している。
都市文化の基層を渉猟する
リム・ボン立命館大学産業社会学部助教授
『大阪市社会部調査報告書』は、まさに、「集積の利益」という用語を彷彿させる迫力満点の資料集である。もし、ここに収録されている個々の資料が分散したままの状態に置かれていたならば、われわれは、たとえそれを入手したとしても「過去に記された断片的事実」を知るに止まっていたであろう。しかし、環境、住居、生業、福祉など、様々な切り口で昭和初期の底辺社会を行き抜く人々の暮らしぶりが相互連関的に再現されるシーンを目の当たりにすることで、過去から現在へと脈々と受け継がれている都市文化の基層を瞬く間に透視することができるのである。フィールドワークを生業とする一研究者として、これら調査に携わられた諸先輩の熱意とその技量の深さに敬意を表したい。
都市社会調査の双璧
倉沢 進東京都立大学教授
戦前の都市社会問題の調査研究は大学アカデミズムによってではなく、市の社会局(部)によって担われてきた。東京・大阪のそれは双璧の宝庫です。
多面的研究が一層進展
芝村篤樹桃山学院大学経済学部教授
これまで散在していた『大阪市社会部報告』がまとめられ、利用しやすくなるのは大変うれしいことです。これで近代大阪についての多面的研究が一層進展することと思います。
社会事業史研究の基礎文献です。
寺脇隆夫長野大学産業社会学部教授
推薦します
灘本昌久[京都産業大学専任講師]
三輪嘉男[神戸学院大学人文学部教授]
*推薦者の肩書き等は1996年当時のものです。