監修によせて
永岡正己梅花女子大学教授
近年、植民地社会事業史の研究は急速に進んできた。とりわけ当事国の立場から戦後世代によって取り組まれていることは大切な点である。また医療、教育等にかかわる分野からの研究も深められ、歴史像の掘下げも進んでいる。しかし研究を深め広げるためには史料の利用が不可欠であるが、今日までこの領域においては基礎資料の入手も困難な状況にあった。そのため、植民地社会事業資料集の復刻を企図し、まず朝鮮編から刊行することとした。
植民地社会事業の解明なしにアジアの福祉の発展はありえないし、アジアに開かれた日本の福祉の普遍的な発展もありえない。近年、歴史を美化したり歪曲したりするような危惧すべき動きが見られるが、支配を受けた立場の国々、人々の立場に立ち、平和と人権と社会主義、民主主義と自治の基礎に立って、謙虚に歴史の痛みと責任を考えることが基本姿勢として求められるだろう。本資料集を通して、生活と差別の実態や民衆の運動との照合も行いながら、総督府や各道における政策がどのようになされたのか、またその深層や隠された部分がどこにあったかも考えていただくことができればと考えている。本資料集は基礎史料にすぎず、不十分な点も含まれている。何よりも、今回の刊行によって、今後の学際的な取り組みや国境を越えた各国の研究者・実践者の協同での取り組みがさらに発展することを願うものである。