民国期の中国諸都市の不動産をめぐる慣行の実態を理解できる貴重資料群
井村哲郎
本資料集には、日本軍占領下の華北・華中の諸都市で行われた「支那都市不動産慣行調査」の現地調査資料と東亜研究所第六調査委員会の我妻栄執筆の報告書を収録した。
この調査は、対中政策を担当した興亜院が東亜研究所に委嘱し、満鉄調査組織が現地調査を行ったという経緯からも分かるように、日本軍が占領した諸都市の支配統治のための基礎資料を得るために実施された。そして、華中の調査の中心にあった満鉄上海事務所の真鍋藤治が指摘するように、この調査は不動産慣行調査という形をとっているが、実際には外国権益の実態を明らかにしようとしたものである。
これらの調査報告は、日本軍支配下での調査という限界はあるが、華北・華中の諸都市における中国人の土地所有、日本を含めた諸外国の不動産権益を明らかにしている。民国期の中国諸都市の不動産をめぐる慣行の実態を理解できるという点で今日から見ても貴重な資料群である。
20世紀以降の中国の動的変化をみるうえで必須の文献史料
貴志俊彦
現代中国における不動産投資の勢いはとどまるところを知らない。ただ、中国全土におよぶその動態を分析的に調査する営みは、これまであまりなされてこなかった。
ところが、戦前、興亜院は、1940年8月に東亜研究所に支那都市不動産慣行調査を委嘱していた。同研究所の第六調査委員会はその調査研究に携わるとともに、実際の調査はさらに満鉄に委嘱した。満鉄は、そのため調査部に支那都市不動産慣行調査委員会を設置したが、実際の調査に携わったのは華北では大連の調査部法制班、華中においては上海事務所調査室第二係であった。
この一連の調査研究は、おもに中国人どうしの不動産取引に関する慣行、および外国人がおこなう同様の取引との比較であった。今日からみても、これら調査機関が残した不動産慣行に関する調査報告は類をみない、きわめて貴重な内容を秘めており、20世紀以降の中国の動的変化をみるうえで必須の文献史料でありつづけている。